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名古屋高等裁判所 昭和42年(ネ)719号 判決

控訴人(被申請人) 三興製紙株式会社

被控訴人(申請人) 古畑盛男

主文

一、原判決中主文第一項の解雇の意思表示の効力を仮に停止する部分及び第四項の訴訟費用の負担部分を取消す。

二、被控訴人の右主文第一項の部分に関する仮処分申請を却下する。

三、原判決中主文第二項の従業員として取扱うべきことを命ずる部分及び第三項の賃金の仮払いを命ずる部分に対する本件控訴はいずれもこれを却下する。

四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五、この判決は第一項に限り(但し訴訟費用の負担部分を取消した部分を除く)仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに疏明関係は、左に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、原判決の訂正〈省略〉

二、控訴代理人の陳述

(一)  本件配転命令が労働協約に違反しないことは、控訴人が原審ですでに述べたとおりであるが、仮に何らかの理由によつて、本件配転命令が若干労働協約に違反するものとしても、これがためその効力を否定さるべきものではない。すなわち被控訴人の指摘する労働協約の各条項は、会社が人事権を行使する上の心構えを定めたものであつて、労働条件その他の労働者の待遇に関する具体的基準を定めたものではないのである。従つてこれらの条項は、労働協約の規範的部分に属さず、債務的部分に属するものであるから、これらの条項に違反した配転命令は当然無効となるわけのものではなく、一種の契約違反として労働組合が使用者の契約上の責任を追求し得るに止まり、配転を命ぜられた労働者自身はこれに従う義務がある。それ故本件配転命令は、労働協約に違反するものとして当然無効であるとなし、被控訴人においてこれに従う義務がないとしている被控訴人の主張はこの点においても失当である。

(二)  本件仮処分申請は保全の必要性を欠いている。すなわち

(イ)  被控訴人は昭和四三年二月一七日施行された祖父江町町会議員選挙に立候補して当選し、同年三月一日からこれに就任して今日に至つているが、祖父江町町会議員が祖父江町から支給される報酬等は議員報酬として月額金一八、〇〇〇円、期末手当(賞与)として年額、報酬月額の三、三ケ月分である。ところで控訴会社の現行就業規則においては、従業員が公職についたときは、その間公職休務者とし、また控訴会社の現行給与規定によれば、公職休務中の者には給与が支給されないことになつている。従つて被控訴人が仮に控訴会社から解雇処分を受けなかつたとしても、祖父江町町会議員に就任することによつて、控訴会社から公職休務者として取扱われ、就任期間中は給与不支給の取扱を受けることになるのであつて、控訴会社はこの見地から本件仮処分により仮に従業員たる地位にある被控訴人に対し、別件(控訴会社を申立人、被控訴人を被申立人とする名古屋地方裁判所昭和四三年(モ)甲第一七九号事情変更による仮処分取消申立事件)の昭和四三年六月二四日の第二回口頭弁論期日において被控訴人を就業規則に基づく公職休務者とする旨の意思表示をした。してみると被控訴人は控訴会社から給与を受け得る地位を失つたことになるのであるから、控訴会社が被控訴人に対してなした解雇の効力を停止し、被控訴人に対して従前の賃金と同額の金員を会社に支払うべきことを命ずる必要性は全く存しないのである。さらに被控訴人が本件仮処分によつて支払を受け得る金員は年間金三一七、一〇〇円であり、一方祖父江町町会議員としての収入は、前述議員報酬と期末手当のみにても年間金二九五、四〇〇円であつて、両者はほぼ一致している。そしてこのように被解雇者が解雇処分を受けた前後を問わず、他に職を有しほぼ従前の賃金に匹敵する程度の収入を得ているときは、保全の必要性はないものと解すべきである。

(ロ)  さらに又、原判決は(1)第一項において、解雇の意思表示の効力の停止、(2)第二項において、従業員としての取り扱い、(3)第三項において、賃金の仮払いを命じているところ、右(2)(3)の部分については、前記別件名古屋地方裁判所昭和四三年(モ)甲第一七九号事情変更による仮処分取消申立事件において取消され(昭和四三年九月二日判決言渡、乙第二八号証)、同判決は確定した。従つて現在(1)の部分のみが残つているのであるが、右(1)の部分も次の理由によつて取消されるべきである。すなわち本件の如き民事訴訟法第七六〇条の「仮の地位を定める仮処分」は「著しき損害を避け若しくは急迫なる強暴を防ぐため又は其の他の理由によりこれを必要とするときに限られる」のであつて、従業員の解雇の有効、無効が問題となつているケースでは、賃金の支払を受けられないことにより「著しき損害を避ける」ため、はじめて仮処分が認容されるのである。然るに前述のとおり賃金の仮払いの(3)、従業員としての取り扱いの(2)の部分が取消された本件について、解雇の意思表示の効力の停止の(1)の部分のみを認める仮処分の必要性はないというべきである。

(三)  なお原判決のうち前述(2)、(3)の部分は別件事情変更による仮処分取消申立事件判決で取消され、該判決は確定しているが、控訴人としては本件の原判決は右事情変更を理由にしなくとも、解雇は正当であり、従つて原判決は(1)ないし(3)のすべてが取消さるべきと思料する。しかして控訴人は右事情変更による仮処分取消判決のあつた後は、いわゆる賃金の仮払いを実行していないが、原判決の言渡後右取消判決言渡しまでの間に被控訴人に支払つた原判決主文第三項に基づく金員の返還を求める必要があり、そしてこれを実現するためには、原判決主文(2)と(3)が、その言渡しの当初から不当であつたことを明らかにし、且つこのような理由によつて取消されることを必要とするのである。そして控訴人はこの点において、(2)、(3)にかかる控訴の利益を有するものと思料する。

三、被控訴代理人の陳述

控訴人主張の別件の昭和四三年六月二四日の口頭弁論期日に控訴人から被控訴人を公職休務者とする旨の意思表示のあつたこと、控訴人主張の別件において控訴人主張のような判決があり、該判決が確定したことはいずれも認める。

四、疏明関係〈省略〉

理由

一、控訴会社は大阪市内に本社を有する各種紙の製造販売を業とする株式会社で、愛知県中島郡祖父江町地内に祖父江工場を設置操業し、右工場において現在約六〇〇名の従業員を使用していること、被控訴人は昭和二七年三月新制中学を卒業し昭和三一年八月控訴会社に雇われ、祖父江工場の工員として一〇年近く抄紙作業に従事し、昭和四一年二月まで右工場第二抄紙課調成係として勤務していたものであること、控訴会社は昭和四一年二月三日被控訴人に対し同年二月一日付で被控訴人を本社営業部板紙第一課受渡係に配置換えする旨の本件配転命令をしたこと、控訴会社は同年三月一日被控訴人に対し、被控訴人が本件配転命令に従わず、長期無届欠勤をしたのは本社就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)第四号、第二号に該当し情状とくに重いとして懲戒解雇に付する旨の意思表示をなしたこと、以上の事実は当事者間に争がない。

二、ところで、被控訴人はまず本件配転命令は労働組合法第七条第一号本文前段に該当する不当労働行為であるから無効であると主張するので、この点につき判断する。

(一)  被控訴人が控訴会社祖父江工場の従業員約六〇〇名中四八四名をもつて組織される労働組合の組合員で、組合内において、昭和三四年青年婦人部幹事、昭和三五年青年婦人部役員、昭和三六年青年婦人部副部長、昭和三七年ないし昭和三九年執行委員と役職を歴任し、昭和四〇年以降は組合の大会に次ぐ決議機関である職場委員会の委員の地位にあつたこと及び控訴会社の事業所で労働組合が結成されているのは祖父江工場だけであつて、被控訴人が大阪本社に転勤すれば組合員資格を失うに至ることはいずれも当事者間に争がなく、原判決挙示の各疏明資料に当審における証人足立肇同鶴忠の各証言及び被控訴人本人尋問の結果を総合すると、従来からの組合活動の状況、組合活動において果した被控訴人の役割、組合活動及び被控訴人に対する控訴会社の言動については、原判決理由欄二の(二)の(6)のうち「かつ、申請人の後任の青年婦人部長に予定されていた組合員の石山を祖父江工場労務課に配置換えし(これにより石山は組合員資格を喪失することとなる)よつて申請人の後任の人選難から副委員長立候補を取り止めさせるようなこともあつた」(原判決二二枚目裏七行目から一一行目まで)とある部分を除くほかは、原判決理由欄中二の(二)に記載のとおりであつたことが疏明される。(ここに右理由記載を引用する。)

(二)  然しまた一方、成立に争のない疏乙第四号証、原審証人安藤富吉の証言により成立を認め得る疏乙第五号証の一、二、原審証人安藤富吉、当審証人鳥羽弘人同大山綱基、原審及び当審証人内藤博典同上野敞三(当審は第二回)の各証言によれば、控訴会社はかねてから経済不況に伴う業績不振の中にあつたところ、昭和四一年春頃からこれが好転するきざしがみえはじめ営業部門の製品の荷動きが活発化し、それに加えて合成樹脂加工部門である加工品課の業務の拡充強化をはかる必要が生じ、これに対処するための機構改革、人事異動が必要となり、その一環として、従来本社営業部受渡係(右機構改革により受渡課は廃止され、その事務は板紙第一、第二課、洋紙課に移管された)において製品受渡を担当としていた本間久博を加工品課に転出せしめ、板紙第一課受渡係の欠員補充を祖父江工場からすることになつた。ところで、同課受渡係の業務は、同課において顧客(代理店を経由)から注文を受けた取扱製品の出荷納入にあたり祖父江工場製品課と連絡し、右製品の輸送を依頼する等納入事務の手配を行う一方、これに関する請求書を顧客代理店に発送し又出荷数量の記帳整理等の事務処理を行い、あわせて顧客代理店との間で苦情処理を含む対外的折衝を行うという内容のものであつて、その業務を処理するについては同課の取扱製品(商品)であるセミシン紙について若干の商品知識を必要とするほか、顧客代理店と日々接触するので商取引的感覚ないし対人的交渉能力を若干必要とするが、さほど難しい仕事ではなく、特別の能力を必要とするものではなかつた。そして前任者である前記本間久博はもと祖父江工場において現場の作業員として勤務していた者で、本社受渡係担当者となつてからは現場の経験を生かし好成績をあげていたところから、本社総務部長は同年一月一四日板紙第一課受渡係の選考基準を(1)学歴は中学又は高校普通科卒業の者でよく(2)職歴は第一、第二抄紙課勤務の者で勤務歴は七、八年(3)年令は三〇才位までの者と定めて、祖父江工場長に適格者の推せんを依頼したこと、そこで同工場長は同月二〇日同工場人事担当者と協議の上右基準該当者一三名のうちから事務的才能と対人的交渉能力においてすぐれていると認められた被控訴人(被控訴人がすぐれた対人的交渉能力の持主であることは原審証人菅沼民治同米持功の各証言によつても窺える)と石丸荘祐の二名を適格者として人選し、なお右二名のうち被控訴人の方がより事務的才能を兼備する旨の意見を付して推せんしたので、控訴会社は被控訴人を適任者であると認め本件配転命令をなしたものであることが疏明され、右の事実に後記三で認定の各事実を併せ考えると、本件配転命令は控訴会社の業務上の必要に基づいてなされたものであり、被控訴人を本社営業部板紙第一課受渡係に人選したことについても一応の合理的理由があつたものと認められる。

(三)  そうすれば以上(一)、(二)で認定した各事実を総合して考察すると、本件配転命令については被控訴人の活発な組合活動を快よしとしない控訴会社が被控訴人を組合組織のない大阪本社勤務に配置換してその組合活動を阻止しようという意図があつたことは窺えるけれども、しかしこのことが本件配転命令の決定的動機ないし理由をなしていたとまでは認めることができず、むしろ本件配転命令の主要な理由は控訴会社の正当な業務上の必要からなされたものと認めるのを相当とする。してみると本件配転命令は、被控訴人に対して「不利益な取扱」に当るかどうかにつき判断するまでもなく、労働組合法第七条第一号本文前段の不当労働行為には当らないものというべきである。それ故本件配転命令は右法条の不当労働行為であるから無効であるとの被控訴人の主張は理由なく採用することができない。

三、次に被控訴人は本件配転命令は労働協約に違反するから無効であると主張するので、以下この点につき考察する。

(一)  被控訴人の所属していた祖父江工場労働組合と控訴会社との間に昭和三九年五月二一日締結された労働協約第一四条には「人事はこの協約の定めるところに基づいて会社が慎重且つ公正に之を行う。」旨の規定があり、同第一七条には「会社は業務の都合により転勤、出向、派遣又は職場並びに職種の変更を命ずることができる。この場合、会社は本人の意向、生活条件及び技能を考慮して公平に行う。」旨の規定があることは当事者間に争がない。

(二)  被控訴人はまず、控訴会社は本件配転命令の発令をするにつきあらかじめ被控訴人の意向を徴することなく本件配転命令を二月一日決定発令し被控訴人に対し抜打的に通告したのは本人の意向を無視したもので、前記各条項に違反する旨主張する。そして本件配転命令の発令につき控訴会社があらかじめ被控訴人の意向を聞かなかつたことは原審における証人内藤博典の証言及び被控訴人本人尋問の結果により疏明される。然しながら原審証人内藤博典同安藤富吉同西迫弘の各証言によれば、控訴会社は前記労働協約第一七条に「本人の意向を考慮して」とあるのは、発令前にあらかじめ本人の意向を聞きこれを確めるという趣旨ではなく、人事管理の任に当る者が従業員の平素の勤務などを通じて知り得た範囲での本人の意向を念頭に置き会社の業務の都合によつて公平に人事異動を行うという趣旨であるとの解釈のもとに従来から人事の異動を発令するに当りあらかじめ発令前に本人の意向を聞くという取扱いをせず、前述の趣旨で慎重に検討して人事の発令をなし、発令に対して異議ある場合はその理由を聞き、考慮すべき正当の事由あるときは再考するが、これに該当しないときは発令どおりの人事を行うという方針に基づき人事異動を行つて来た(控訴会社のこの取扱いについては従来組合から格別の異議の申出でもなかつた)ものであつて、本件配転についても従来の取扱いと同様右の方針に基づきこれを行つたもので、被控訴人の場合だけ本人の意向を全く無視して例外的な取扱いをしたものではないことが疏明される。そして前記労働協約第一七条に「本人の意向を考慮して」とある条項についての控訴会社の前述解釈は妥当なものとしてこれを是認できる。従つて控訴会社が本件配転命令の発令をするにつきあらかじめ被控訴人の意向を聞かずに行つたことを以て労働協約第一七条にいう本人の意向を無視した違法のものということはできず、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。

(三)  次に被控訴人は、本件配転命令は、昭和四一年三月被控訴人が結婚する予定であること、被控訴人が単身大阪に赴任するときは住宅確保の点で著しい不利益をこうむる結果となること等被控訴人の生活上の条件を考慮することなく行われたものである旨主張する。そして被控訴人が昭和四一年三月結婚する予定であつたことは当事者間に争がない。然し原審証人上野敞三、原審及び当審証人内藤博典の各証言によれば、被控訴人が単身大阪に赴任しても結婚するまでは大阪本社にある独身寮に居住することが可能であり、また、被控訴人が結婚した場合には大阪本社の社宅が少いため適当な住宅を探さなければならないが、この場合でも大阪本社総務課において借家の物色自体を応援し、さらに借家契約に伴う敷金ないし保証金等は控訴会社がこれを立替え支弁する等住宅確保の点についても種々援助を与えることになつていることが疏明されるから、被控訴人が住宅確保の点で著しい不利益をこうむる結果となるとはいえず、また前記各証人の証言によれば、被控訴人が大阪本社勤務者として結婚した場合には住宅手当として三、〇〇〇円のほか都市手当として基本給の一五パーセント(三、一〇五円)及び食事手当として一、八〇〇円が加給される結果結局総額五、四〇五円の増収となることが疏明されるから、経済的にも不利益をこうむる結果となるとは必ずしもいい難い。それ故本件配転命令は被控訴人の生活上の条件を考慮することなく行われたものであるとの被控訴人の主張は採用できない。

(四)  また、被控訴人は、本件配転命令は被控訴人の学歴、経歴等からして本社営業部板紙第一課受渡係の業務を処理する技能、能力を欠くことが明らかであるのにこれを考慮せず行われたものである旨主張するが、原審証人上野敞三の証言によれば、被控訴人の祖父江工場第二抄紙課調成係としての業務はパルプの濃度の測定、原料の溶解具合の確認、薬品の添加等を主とし、あわせて原料、薬品等の使用数量を記帳したり、歩どまりの計算をしたりしていたのであつて、全然事務的な仕事をしなかつたというわけではないことが疏明され、しかも本件配転先である本社営業部板紙第一課受渡係の業務の内容は前認定のとおりであつて、これが業務を処理するについては取扱商品であるセミシン紙についての若干の知識と商取引的感覚ないし対人的交渉能力を若干必要とするが、さほど難しい仕事ではなく、被控訴人が右の業務を処理する技能、能力を有していたことは前に認定したとおりであるから、本件配転命令は被控訴人の技能、能力に対する考慮を欠いて行つたものであるとの被控訴人の主張も採用できない。

(五)  なお、被控訴人は本件配転命令は不当労働行為を構成する事由により行われたものでそれ自体不正であり、被控訴人を他の従業員に比し不公正に扱わんとするものである旨主張するが、本件配転命令が不当労働行為にあたらないことは前に説示したとおりであり、その他本件配転命令が他の従業員に比し被控訴人を不公正に扱つたと認め得べき疏明がないから被控訴人の右主張も採用できない。

右の次第で、本件配転命令には被控訴人主張の如き労働協約違反の点が認められないので、これが協約に違反するから無効であるとの被控訴人の主張もまた理由なく採用できない。

四、而して成立に争のない疏乙第八、第二〇、第二一号証、原審証人内藤博典の証言によりいずれも成立を認め得る疏乙第一〇、第一二、第一三号証に原審証人安藤富吉、同内藤博典、同上野敞三、当審証人鳥羽弘人の各証言を総合すれば、控訴会社は本件配転発令後被控訴人が配転命令に従わずこれを拒否し大阪本社へ赴任しようとしないので、被控訴人の赴任期限を昭和四一年二月一七日まで猶予し、その間祖父江工場職制を通じ数回にわたり被控訴人に対し大阪本社へ赴任するよう説得したのであるが、被控訴人は配転拒否の態度を変えず二月一七日に至るも赴任しなかつたこと、そこで控訴会社は本社就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)に従い同月二二日諮問委員会を開催し、かつその席上で被控訴人及び組合執行委員長の意見を聞いたが、被控訴人は大阪本社へ赴任する意思の全くないことを明言したので、同月二六日第二回諮問委員会を開催し、同委員会の意見を徴した上、同年三月一日付で、被控訴人に対し、被控訴人が本件配転命令に従わず長期無届欠勤をしたのは本社就業規則第五七条(工場就業規則第六三条)第四号の「職務上の指示命令に従わず職場の秩序を紊し又は紊そうとする者」及び第二号の「正当な理由なくして無届欠勤をなす者」に該当し情状が特に重いとして本件懲戒解雇の通告をなすに至つたものであることが疏明されるところ、被控訴人は、本件懲戒解雇は本件配転命令が不当労働行為に当り、かつ労働協約に違反する無効のものであるから、被控訴人が本件配転命令を拒否しこれに応じないからといつて控訴会社の業務命令に違反するものではなく、また無届欠勤ともいえない旨主張するが、本件配転命令が被控訴人の右に主張するような理由では無効といい難いこと前に説示したとおりであるから、他に正当な理由の在することにつき疏明のない本件では、被控訴人は本社就業規則第五条(工場就業規則第六条)により本件配転命令に従うべき義務があるものといわなければならない。然るに被控訴人は前認定のとおり本件配転命令を拒否しこれに従わず所定期限までに大阪本社に赴任しないばかりか、その後も配転先の職場に出勤しなかつたのであるから、控訴会社が被控訴人に対し本社就業規則第五七条(工場就業規則第六三条)第四号及び第二号に基づき懲戒解雇にしたのは相当であるとしなければならない。なお被控訴人は、被控訴人が本件配転命令を拒否し本社営業部への出勤に応じなかつたのは、組合の配転命令反対闘争の過程において、組合の命令に基づき、正当な組合活動の一環としてなしたものであるから、これを理由に懲戒解雇の処分を行うのはそれ自体不当労働行為を構成する旨主張するけれども、被控訴人が本件配転命令を拒否しこれに従わなかつたのは、組合が本件配転に反対しているから組合の命令に基づき本件配転に応じなかつたというのではなく、組合の意思如何に拘らず被控訴人自身の意思に基づくものであること原審における証人足立肇の証言及び被控訴人本人尋問の結果により窺えるから、このような事情の下においてなされた本件懲戒解雇を目して正当な組合活動の故になされた不当労働行為であるということはできない。

五、そうすると、被控訴人に対する本件懲戒解雇の意思表示の効力を妨げるべき何等の事由もないことになるから、被控訴人に対する控訴会社の本件懲戒解雇の意思表示によつて、被控訴人は昭和四一年三月一日限り控訴会社の従業員たる地位を失つたものというべく、従つてこれが仮の地位を保全する必要上、(1)右解雇の意思表示の効力の停止とともに(2)被控訴人を祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の従業員として取扱う(3)昭和四一年二月二七日以降の賃金を仮に支払う旨の命令を求める被控訴人の本件仮処分申請は、結局被保全権利の存在につき疏明がないことに帰するから、仮処分の必要性の有無につき判断するまでもなく、理由がないものとして却下さるべきである。

よつて以上と異なる見解の下に被控訴人の右申請を容れこれと同旨の仮処分を命じた原判決は相当でないとしなければならない。ところで、原判決言渡後控訴会社を申立人、被控訴人を被申立人とする名古屋地方裁判所昭和四三年(モ)甲第一七九号事情変更による仮処分取消申立事件について、昭和四三年九月二日、原判決のうち前記(2)の被控訴人を祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の従業員として取扱うことを命ずる部分及び(3)の賃金の仮払いを命ずる部分をいずれも無担保(無担保の点は成立に争のない疏乙第二八号証によつて明らかである)で、取消す旨の判決言渡があり、この判決が確定したことは当事者間に争がない。そうすると、原判決中右(2)及び(3)の部分は右取消の確定判決により既に失効したものというべく、従つて控訴人は当審で重ねて右(2)及び(3)の部分の取消を求める利益ないし必要性を欠くに至つたものといわなければならない。それ故右(2)及び(3)の部分に対する控訴人の本件控訴はその利益ないし必要性を欠くものとして却下すべきものとする。控訴人はこの点につき、控訴会社は原判決言渡後右取消判決言渡しまでの間に被控訴人に支払つた原判決主文第三項に基づく金員の返還を求める必要があり、そしてこれを実現するためには原判決主文中(2)と(3)の部分がその言渡しの当初から不当であることを明らかにし、かつこのような理由によつて取消されることを必要とするので、右(2)、(3)にかかる控訴の利益を有する旨主張するが控訴人主張の右金員の返還を実現するためにはその旨の債務名義(不当利得返還請求権又は損害賠償請求権を本案とする確定判決等)が必要であり、本件の如き控訴による仮処分の取消判決だけで直ちに実現できる筋合のものではないから、右(2)、(3)の部分についても控訴の利益ないし必要性を有する旨の控訴人の主張は採用できない。

六、以上の次第であるから、原判決中主文第一項の解雇の意思表示の効力を仮に停止する部分に関する本件控訴は理由があるからこれを取消し、なお同主文第二項の従業員として取扱うべきことを命ずる部分及び第三項の賃金の仮払いを命ずる部分に対する本件控訴はいずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条、第七五六条の二を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄 広瀬友信 大和勇美)

原審判決の主文、事実および理由

主文

一、被申請人が昭和四一年三月一日申請人に対してなした解雇の意思表示の効力は本案判決確定に至るまで、仮に、これを停止する。

二、被申請人は本案判決確定に至るまで、仮に申請人を被申請人会社祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の従業員として取り扱え。

三、被申請人は申請人に対して昭和四一年二月二七日以降本案判決確定に至るまで、仮に一ケ月二六、四二五円の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一、申立

一、申請人の申立

(一) 被申請人が昭和四一年三月一日申請人に対してなした解雇の意思表示は、本案判決確定に至るまで、仮に、これを停止する。

(二) 被申請人は申請人を被申請人会社祖父江工場第二抄紙課調成係従業員として勤務させよ。

(三) 被申請人は申請人に対して昭和四一年二月二七日以降一ケ月二六、四二五円の割合による金員を、仮に、支払え。

との判決を求める。

二、被申請人の申立

申請人の申請はいずれもこれを却下する。

との判決を求める。

第二、主張

一、申請人の申請理由

(一) 当事者

(1) 被申請人は大阪市内に本社を有する各種紙の製造販売を業とする株式会社で、愛知県中島郡祖父江町地内に紙製品製造の工場(以下祖父江工場という。)を設置・操業し右工場において、現在、約六〇〇名の従業員を使用しているものである。

(2) 申請人は、昭和二七年三月新制中学を卒業し昭和三一年八月被申請人に雇われ祖父江工場の工員として約一〇ケ年弱の期間抄紙作業に従事し昭和四一年二月まで右工場第二抄紙課調成係として、勤務していたもので、一ケ月の平均賃金は二六、四二五円であつた。

(二) 配転命令

被申請人は昭和四一年二月三日申請人に対し昭和四一年二月一日付をもつて申請人を本社営業部板紙第一課勤務に配置換えする旨の意思表示(以下本件配転命令という。)をした。

(三) 配転命令の無効

しかしながら本件配転命令は次の理由により無効である。

(A) 本件配転命令は労働組合法第七条第一号本文前段に該当する不当労働行為である。

(1) 申請人の組合活動

申請人は現在祖父江工場従業員中四八四名をもつて組織する三興製紙祖父江工場労働組合(以下組合という。)の組合員でかねてから熱心に組合活動に従事して来た者で、昭和三四年組合青年婦人部幹事、昭和三五年青年婦人部役員、昭和三六年青年婦人部副部長、昭和三七年ないし昭和三九年執行委員を歴任し昭和四〇年以降現在までは組合の大会に次ぐ決議機関たる職場委員の地位にある者である。

(2) 組合活動並びに申請人に対する被申請人の言動

(イ) 被申請人は昭和四〇年春頃から組合の活動に対し業務命令でこれを押しつぶそうとしたり、労働協約の一方的な解釈を通じて組合の要求を押しつぶそうとしたりする態度を示し始め、組合役員その他組合活動家に対しては、工場長自らが、いわゆるアカ攻撃をなし、「春闘までには、アカを追放する。」と言明したり、社内報に思想攻撃記事を掲載したりして、これ等の者を非難するとともに、一方職制を通じて個人説得等の手段により懐柔しようとする態度を示して来た。

(ロ) そしてその間昭和四〇年五月には組合の牛田辰麿執行委員を労働組合の結成されていない大阪本社へ配置転換し、同年七月には組合青年婦人部副部長今村一成を同一資本系列の下にある別会社に出向させる等組合組織を弱める労務政策を実施した。

(ハ) 一般組合員に対しては、組合に対する信頼性を弱めるため組合活動を批難したり、学習会その他の組合集会に参加させないようにしたりした。

(ニ) 申請人に対しては昭和三九年以降職制を通じて「君の思想行動はよくない。」「昭和四一年春闘前にアカを一掃する。」「組合のやり方は間違つている。」等言つて、申請人の組合活動や思想傾向を憎悪・嫌悪する態度を示した。

(3) 配転命令当時における組合の活動状況

(イ) 本件配転命令当時、組合の上部団体である紙パルプ労連は、「全国一率最低賃金制の確立」「五、〇〇〇円以上の賃上げ」等いわゆる春闘の統一要求案を決定し、組合も、これに基づいて春闘の具体的目標や闘争方法を討議し、「組合員の生活を基礎に徹底した大衆討議と大衆行動により組合員の要求を組み上げること」「組合活動に対する会社の攻撃の本質を究明し、組合員を企業内意識から脱皮させるため、学習・教宣活動を強化する」「組合の組織や団結を弱めようとする不当弾圧やアカ攻撃をはねかえすこと」等の基本方針を決定していた。

(ロ) さらに、本件配転命令当時は組合と被申請人との間に締結されていた労働協約の有効期間が昭和四一年三月三一日迄であつたため、右有効期間の延長、組合員や組合役員の配転等に関する人事条項の改定等をめぐる協約改定交渉が行われていた。

(4) 配転命令により申請人の受ける不利益

(イ) 組合は祖父江工場勤務の従業員をもつて組織され、被申請人本社勤務の従業員は組合員資格を有しないから、申請人が本件配転命令に服しなければならないものとすれば申請人は自動的に組合員資格を失うばかりか地理的にも祖父江工場からはなれ組合活動が行い得ないという不利益を受ける。

(ロ) 申請人は本件配転命令当時祖父江工場附属の独身寮に居住していたが、昭和四一年三月結婚する予定で、社宅入居資格者になるので、既に同年一月中旬頃社宅入居の申込み手続を了していた。しかるに、申請人が本件配転命令に服しなければならないとすると、結婚前単身で大阪に赴任しなければならず、かくては妻帯者が転勤した場合受けることになる補助金等の優遇措置を受けられないことになり大阪においては経済的に住居の確保が不可能ないし困難になるという生活上の不利益を受ける。

(5) 以上(1)ないし(4)記載の事実から明らかなように、本件配転命令は被申請人が申請人の正当な組合活動を嫌悪し、申請人を組合組織のない本社勤務に配置換してその組合活動を阻止し延いては組合の弱体化をはかるためされた不利益取扱で、不当労働行為として無効である。

(B) 本件配転命令は労働協約に違反する。

(1) 労働協約第一四条には「人事はこの協約の定めるところに基いて会社が慎重且つ公正に之を行う。」旨の規定があり、同第一七条には「会社は業務の都合により転勤、出向派遣又は職場並びに職種の変更を命ずることができる。この場合会社は本人の意向、生活条件及び技能を考慮して公平に行う。」旨の規定がある。

(2) 本件配転命令は、次の各点において、右各条項に違反する。

(イ) 本人の意向無視

被申請人は本件配転命令の発令をするにつきあらかじめ申請人の意向を徴することなく本件配転命令を二月一日決定発令し、申請人に対し抜打的に通告した。これは本人の意向を無視したものである。

(ロ) 生活条件の考慮の欠除

本件配転命令は、昭和四一年三月申請人が結婚する予定であること、申請人が単身大阪に赴任するときは住宅確保の点で著しい不利益をこうむる結果になること等申請人生活上の条件を考慮することなく行われたものである。

(ハ) 技能の考慮の欠除

申請人の学歴、職歴等は前記のとおりである。他方、本社営業部板紙第一課の勤務は対人折衝、製品の受け渡及びこれに伴う事務等いわゆる営業、事務的のものであつて、申請人がこれを処理する技能、能力を欠くことは自ら明らかであるのにもかかわらず、このことを考慮せず本件配転命令はなされた。

(ニ) 不正、不公正性

本件配転命令は前記のとおり不当労働行為を構成する事由により行われたもので、それ自体不正であり申請人を他の従業員に比し不公正に扱わんとするものである。

(3) したがつて、本件配転命令は労働協約の前記各条の定めに違反するから無効である。

(四) 懲戒解雇

被申請人は、昭和四一年三月一日申請人に対し同日付で申請人を懲戒解雇に付する旨の意思表示(以下、本件懲戒解雇という。)をした。本件懲戒解雇の事由は、申請人は、会社の転勤命令を拒否し職場の秩序を紊したので本社就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)第四号の職務上の指示命令に従わず職場の秩序を紊し又は紊そうとする者に該当し、又同年二月一日以降二月二六日に至る間無届欠勤が長期に及んだので同条第二号の正当な理由なくして無届欠勤をなした者に該当し、その情状が特に重い、というのである。

(五) 本件懲戒解雇は次の理由により無効である。

(1) 本件配転命令は前記の事由により無効であるから、申請人が本件配転命令を拒否しこれに応じなかつたからといつて被申請人の業務命令に違反するものではなく、従前どおり祖父江工場第二抄紙課へ出勤することは被申請人において拒絶するところであつたから申請人には、前記就業規則の各規定に該当する事由がなく本件懲戒解雇は無効である。

(2) 申請人は、組合の配転命令反対闘争過程において、組合の命令に基づき、正当な組合活動の一環として、本件配転命令を拒絶し本社営業部への出勤に応じなかつたものである。したがつてこれを理由に懲戒解雇の処分を行うのは、それ自体不当労働行為を構成するから、本件懲戒解雇は無効である。

(六) 被申請人は、申請人に対し、本件懲戒解雇をなすと同時に、同月二六日までの賃金を支払う旨通告したが、それ以後は申請人は被申請人従業員でないとして、賃金を支払つていない。

本案判決の確定まで申請人が被解雇者として取扱われ、就業できず、賃金支払を受けられないときは申請人は回復しがたい損害を受けるおそれがあるから、これを避けるため本件申請に及んだ。

二、被申請人の答弁

(一) 申請理由のうち(一)、(二)、(三)の(A)の(1)、(四)の事実はすべて認める。

(二) 申請理由(三)の(A)の(2)のうち、申請外牛田及び今村を申請人主張のように配転ないし出向させた事実は認めるが、その余は否認する。同(3)のうち、労働協約の有効期間が昭和四一年三月三一日迄であつたことは認めるが、その余は否認する。同(4)のうち、申請人が社宅入居基準に該当するとの点および入居申込手続をした点は認めるが、その余は否認する。同(5)は争う。

(三) 申請理由(三)の(B)の(1)は認めるが、同(2)、(3)は争う。

(四) 申請理由(五)、(六)は争う。

三、被申請人の主張

(一) 人事権行使の正当性

本件配転命令は、被申請人における業務上の必要に基いてなされた人事権の正当かつ合理的な行使にほかならない。

(1) 人事異動を行うに至つた事情

被申請人を含む板紙業界は、かねてから経済不況にともなう業績不振の中にあつたが、昭和四一年春頃からこれが好転する傾向を示しはじめた。被申請人においても営業部門で製品の荷動きが活発になり、それに加えて合成樹脂部内加工品課関係の業務が軌道に乗りはじめたので、これらの情勢に即応するため機構改革、人事異動が必要となつた。その一環として、営業部門においては、現場生産知識を具備した従業員の養成、生産業務を理解した事務担当者の養成を骨子とする人事交流をすることとなり、従来、本社営業部受渡課(昭和四一年二月一日付機構改革により、同課は廃止されその業務は板紙第一課に引きつがれた。)において製品受渡を担当していた本間久博を加工品課に転出させ、その後任を補充することとなつた。

(2) 申請人を選考した経過

具体的な人選に先立ち、前任者本間久博が好成績を上げた理由が、現場経験を経て来ていると言う点にあつたことが考慮され、後任者についても、現場経験をもつ者の中から選考することとし、しかも顧客との接触が多いことから三〇才前後の者で、文章に堪能で事務能力のある者から選ぶという基準が決定された。

これに基づいて被申請人本社は祖父江工場長に適格者の推薦を依頼したところ、同人は、宮崎高等商業学校を中退し、約一年間薬局に勤務したうえ、昭和三四年一〇月被申請人に雇われ、祖父江工場に勤務して来た石丸荘裕(昭和一四年九月八日生)と、申請人の二名を本社あて推薦した。

申請人は、同僚との付き合いもよく、仕事に精励しており、又現場員としては、文章に堪能で発表能力もあり、顧客との接触の多い仕事に適すると認められたので、申請人を本間久博の後任者とすることに決定し、本件配転命令を発した。

以上のように被申請人が申請人を祖父江工場から大阪本社営業部へ配置転換したのは、被申請人の有する人事権を行使しうべき正当な理由があつたからにほかならない。

(3) 申請人は、祖父江工場から大阪本社に、配転されれば組合員資格を失うこととなり不利益を蒙むる旨主張するが、同工場から他に転勤すればその資格を失うに至ることは組合の規約上一般に共通することであつて、あえて申請人に限つて不利益となるというものではない。

(4) さらに、大阪本社着任後の生活上の不利益を申請人はいうが、住居は祖父江工場の場合の如く社宅に入居できないとしても、被申請人は申請人に一ケ月三、〇〇〇円の住宅手当を支給することとしているので都市手当等の増額分をも含め申請人は結婚後においては、合計三〇、一〇五円の賃金を受けうることとなり、結局数千円以上の収入増となるから、本件配転命令は申請人に生活上不利益を与えるものではない。

(二) 協約違反の不存在

(1) 申請人は本件配転命令が労働協約の人事条項に違反する旨主張するがその事実はない。

(イ) 被申請人は、本件配転についても、従来と同様、会社人事の一つとして発令に先立ち慎重な検討を加え、発令に対して異議ある場合はその理由をきき、考慮すべき正当な理由あるときは発令を再考するとの方針に基づき、これを行つたもので決して申請人の正当な申出を無視して人事権を行使したものではない。被申請人は、昭和三六年一〇月以降についてみても役職者を除いて二〇件の配転、出向等の人事を行つているが、これらについても、事前の秘密漏洩に伴う弊害をおそれ、あらかじめ発令前に本人の意向を聞くという取扱いをしていない。協約第一七条の「本人の意向を考慮」するとは、前記のように発令後正当な異議申立を考慮する趣旨にほかならない。

このことは、従来から組合は勿論、何人も承認しているところで、本件配転命令も、この点において協約に違反するものではない。

(ロ) 被申請人は、本件配転命令後の赴任期間を二週間としており、この点においても、不公平な取扱いをしていない。

(ハ) 被申請人が申請人入社時におけるクレペリンテストの結果および工場在勤中の一般事務能力、計算能力、発表力その他社交的能力までも総合考慮して本件配転命令をした。このことは、前記選考の経過にてらし明らかである。

(ニ) 申請人の生活条件を考慮していることは、前記のとおりである。

(2) したがつて、被申請人が申請人の意向を無視し、不公平に、その技能や生活条件を考慮しない配転を行つたとの主張は、根拠がなく、協約違反の事実は存しない。

(三) 懲戒解雇の有効性

(1) 懲戒解雇理由

申請人は前記のとおり有効正当な本件配転命令に従わず、所定期間内に被申請人大阪本社営業部板紙第一課に赴任せず、又、右配転後の職場に出勤しなかつたので、被申請人は申請人の右各行為がそれぞれ被申請人本社就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)第四号「職務上の指示命令に従わず職場の秩序を紊し又は紊そうとする」ことおよび、同条第二号「正当な理由なく無届欠勤をなすこと」に該当し、その情状が重いと考えたので本件懲戒解雇をなしたものである。

(2) 懲戒解雇までの経過

被申請人は本件配転命令後本件懲戒解雇発令までの間において祖父江工場職制を通じ、個人的に数回以上にわたつて大阪本社への赴任を説得したほかこの間、本件配転命令に関し組合との間にもたれた数次の団体交渉の席においても、組合役員および申請人に対し本件配転命令が業務上必要で合理的な措置であるゆえんを種々説明した。

しかしながら、依然として申請人が配転拒否の態度を変えないのでやむ得なく就業規則に従い二度にわたつて諮問委員会を開催し、かつその席上で、申請人及び組合執行委員長の意見をも徴したが、諮問委員会は、最終的に申請人の配転拒否には正当事由がないとの結論に達した。

そして昭和四一年三月一日付、前記理由により、懲戒解雇したものである。

(3) 被申請人は、右のとおり本件懲戒解雇に先立ち、情理をつくした説得工作をつくしたうえ、適正な手段にしたがつて申請人を懲戒解雇したものである。

してみれば、本件懲戒解雇は有効である。

(四) なお申請人の昭和四一年二月分の賃金は、同月二八日被申請人において既に支払い済みであり、また被申請人は昭和四一年三月一日、申請人に対し解雇の意思表示をした際、当時の申請人の三〇日分の平均賃金を支払つたところ、申請人は一旦右金員を受領したが、後に至り暫く預つておいて貰いたいと称して差置いて帰り今日に至つている。

四、被申請人の主張に対する申請人の答弁

被申請人の配転理由として主張するところは否認する。

第三、疎明〈省略〉

理由

一、被申請人は大阪市内に本社を有する各種紙の製造販売を業とする株式会社で、愛知県中島郡祖父江町地内に祖父江工場を設置操業し、右工場において現在約六〇〇名の従業員を使用しているものであること、申請人は昭和二七年三月新制中学を卒業し昭和三一年八月被申請人に雇われ、祖父江工場の工員として一〇年近く抄紙作業に従事し、昭和四一年二月まで右工場第二抄紙課調成係として勤務していたものであること、被申請人は昭和四一年二月三日申請人に対し同年二月一日付で申請人を本社営業部板紙第一課勤務に配置換えする旨の本件配転命令をしたこと、被申請人は同年三月一日申請人に対し、申請人が本件配転命令に従わず、長期無届欠勤をしたのは本社就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)第四号、第二号に該当し情状とくに重いとして懲戒解雇に付する旨の意思表示をなしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、申請人は本件配転命令は不当労働行為に該当するから無効であると主張するので、まずこの点について検討する。

(一) 申請人が、祖父江工場従業員約六〇〇名中四八四名をもつて組織される労働組合の組合員で、組合内において、昭和三四年青年婦人部幹事、昭和三五年青年婦人部役員、昭和三六年青年部副部長、昭和三七年ないし昭和三九年執行委員と役職を歴任し、昭和四〇年以降組合の大会に次ぐ決議機関である職場委員会の委員の地位にあることは当事者間に争いがない。

(二) 成立に争いのない甲第二五号証、証人足立肇、同菅沼民治、同長谷川一雄、同宮下貢の各証言および申請人本人尋問の結果によれば、従来からの組合活動の状況、組合活動において果した申請人の役割、組合活動および申請人に対する被申請人の言動はおよそ次のとおりであつたことが疎明される。

(1) 昭和三三年頃までは、祖父江工場には、三興製紙従業員組合が存在したが、昭和三四年八月名称を三興製紙労働組合と改めた。

又、これと平行して右組合内においても、組合組織を強化し、その活動を活発にするためには三〇才以下の青年層を中心として、組合内にいわゆる青年婦人部を結成する必要があると考える者が次第に多くなり、申請人らが中心となり昭和三四末、組合内に青年婦人部が結成された。

(2) 青年婦人部に属するのは、組合員四八四名中約二三〇名ないし二五〇名であるが、これらの者達は、平常から、組合の日常活動において職場内に組合ニユースを配布したり、街頭で地域住民に対しビラマキをしたりする等活発な組合活動をし、組合内で主動的な勢力を形成するに至つていた。

(3) 組合は、昭和三四年以降紙パルプ労連にも加盟し、活動を強化し、昭和三五年には、年末一時金の要求をめぐつて、労働組合へ改称後はじめて二四時間ストライキを、昭和三七年には十数波のストライキのほか、無期限ストライキをもし、昭和四〇年の年末一時金闘争、昭和四一年の春闘においては、スト解除後も長期間にわたつて操業上の打撃が回復しないために被申請人が多大の損害を蒙むるいわゆるベンソンボイラー部門の時限ストライキを計画し、会社に通告する等した。

(4) ところで、申請人は組合の主要勢力をなす青年婦人部の中心的存在で、一般部員の意識を高め組合活動を強化するため、平素から、コーラスグループやフオークダンスグループを結成して外部組合との交流活動をしたり、「学習の友」と題するテキストを使用する学習会を開催したり、原潜寄港反対、母親大会への参加呼びかけ等活発に組合活動を行つて来た。

また、申請人は青年婦人部員の大部分約百数十名が居住している祖父江工場の独身寮内において、数人の仲間とともに、寮生の生活の向上、寮自治の確立のため、自治会の結成活動を行い、これが結成されるや、初代自治会長となつた。

さらには、職場内で、他の組合員に「赤旗」の講読を勧誘する活動も行つた。

又、申請人は組合活動の強化のため、いわゆる家族連絡協議会の如き組織を社宅居住者を対象として結成することが必要であるという考えでその頃から祖父江工場社宅に居住する組合員家族の約八〇パーセント以上の家庭を訪問し、これが結成のための説得にあたる等の活動をした。

そして、申請人は、昭和四一年二月ごろは主たる役職をしりぞいていたが、青婦部役員(組合の執行委員)の顧問、相談役といつたような立場にいた。

(5) 他方昭和三四年以来、組合が著しく成長し、組合内における青年婦人部の活動が活発になるにつれ祖父江工場の労務担当者等は、組合との団交の席上で、執行委員に対ししばしば「青年婦人部のいうとおり動く執行部では困る。」「青年婦人部の活動は政治活動でないか。」「組合ニユースの表現は過激だ。」等発言した。

そして、班長クラスの組合員のために執務時間をさいて、「民青同」を批判する講習会を開催したり、忘年会や野球部の会合等で課長等は、組合の活動家に対し「民青同に入つていることは将来のためによくないから、止めよ」と言つたこともある。申請人の言動について、職制等は一般組合員に対し、「彼の考え方思想は危険だ」「彼のいうことは少し行き過ぎだ」「古畑は赤だ」等いい、申請人が前記のとおり各種のサークル活動を行い、学習会を組織し各種の組合や平和団体等の集会に組合員を勧誘せしめることについても、「古畑のいうことをあまり聞いてはいけない。」等いつた。

申請人が貸切りバスを手配し、前記各集会に一般組合員を参加させた際には、労務担当課員が工場表門で参加者の氏名をチエツクした。

青年婦人部員の多く居住する寮においては、管理人等を通じて「赤旗」の講読者をひそかに調査した。

(6) 申請人に対し、昭和三六年春闘の頃から、当時、抄紙部門の課長であつた大久保順造は、自宅や課長室に呼んで「今の組合のやり方は間違つている。」「組合はもつと会社の立場を考えるべきだ。」「君のような考え方や思想をもつているのは、会社を破壊させるものだ。絶対にやめなければならない。」等といつた。

その後も、春闘の際や組合がストライキの準備体制にある時などに、職場の課長は「組合や青年婦人部をストをやる方向に指導してはいけない。」等、といつた。昭和三八年八月申請人が前記のとおり組合の副委員長に立候補した際滝課長は「古畑はアカだから、あいつを当選させるといけない。」等職場内に言いふらし、かつ、申請人の後任の青年婦人部長に予定されていた組合員の石山を祖父江工場労務課に配置換えし(これにより石山は組合員資格を喪失することとなる)よつて申請人の後任の人選難から副委員長立候補を取り止めさせるようなこともあつた。そしてこのような被申請人労務担当者の反組合的言動は昭和四〇年春以降とくに顕著になつた。

(7) 被申請人は昭和四〇年五月の春闘期間中に組合の牛田辰麿執行委員を労働組合のない大阪本社に配置転換し、同年七月には組合青年婦人部副部長今村一成を三ケ月間の約でサツキ製紙株式会社富士工場に出向させたが、約旨に反し出向を解かないばかりか昭和四一年一月一方的に本社籍に移すということもあつた(右牛田、今村の前記配置転換、出向の事実については当事者間に争いがない。)。

(8) さらに、本件配転命令のなされた当時は、組合の上部団体である紙パルプ労連においては「全国一率最低賃金制の確立」「五、〇〇〇円以上の賃上げ」等いわゆる春闘の統一要求案を決定し組合においてもこれに基いて春闘の具体的目標や闘争方法を討議しその基本方針を決定する等春闘態勢の最中であつた。

(9) さらに、本件配転命令当時、労働協約の有効期間の満了が近かつたため(右有効期間が昭和四一年三月三一日であつたことは当事者間に争いがない。)右有効期間の延長をはじめ、組合員や組合役員の配転等に関する人事条項の改定等をめぐり協約改定交渉が行なわれており、組合は同年一月下旬、組合役員の人事異動については組合の同意を得て行うものとするとの条項を含む労働協約改定案を被申請人に提出していた。

(三) ところで、被申請人の事業所で労働組合が結成されているのは祖父江工場だけであるから、申請人が大阪本社に転勤すれば組合員資格を喪失し、祖父江工場における組合活動から絶縁しなければならなくなることはみやすいところである。このことと、以上記載の(一)、(二)の事実を綜合すると、本件配転命令は申請人の活発な組合活動を快しとしない被申請人が申請人を組合組織のない本社勤務に配置換してその組合活動を阻止し、延いて組合の弱体化をはかる意図をもつてなされたものであり、しかもかかる意図が本件配転命令をなすに至つた主要な理由であることは容易に推認しうるところである。

(四) もつとも、被申請人は本件配転命令は業務上の必要に基いてなされた人事権の正当な行使であつて、なんら不当労働行為を構成するものではないと主張するので、次にこの点について判断する。

成立に争いがない乙第四号証、証人安藤富吉の証言により真正に成立したと認める乙第五号証の一、二、第一〇号証、証人安藤富吉、同内藤博典、同上野敞三の各証言によれば、被申請人はかねてから経済不況にともなう業績不振の中にあつたところ、昭和四一年春頃からこれが好転するきざしがみえはじめ、営業部門の製品の荷動きが活発化し、それに加えて合成樹脂加工部門である加工品課の業務の拡充強化をはかる必要が生じ、これに対処するための機構改革、人事異動が必要となり、その一環として、従来本社営業部受渡課(右機構改革により受渡課は廃止されその事務は板紙第一、第二課、洋紙課に移管された)において製品受渡を担当していた本間久博を加工品課に転出せしめ、板紙第一課受渡係の欠員補充を祖父江工場からすることになつた。同課受渡係は、同課において顧客に販売した取扱製品の納入にあたり祖父江工場製品課と連絡し、該商品の輸送を依頼する等納入事務の手配を行う一方、これに関する請求書を作成して顧客に発送し、又出荷数量の記帳整理等の事務処理を行いあわせて顧客代理店との間で苦情処理を含む対外的折衝を行うという内容のものであつた。したがつてその職務を処理するについては同課の取扱商品であるセミシン紙についての若干の商品知識が必要であるほか顧客代理店と日々接触するので、商取引的な感覚ないし対人的交渉能力が若干必要とされるものの、さほど難しい仕事ではなく格別の能力を必要とするものでもなかつた。本社総務部長は同年一月一四日板紙第一課受渡係の選考基準を(1)学歴は中学又は高校普通科卒の者でよく、(2)職歴は第一、第二抄紙課勤務の者で勤務歴は七、八年、(3)年令は三〇才位迄の者と定めて祖父江工場長に適格者の推薦を依頼したところ、同工場長は同月二〇日同工場人事担当者と協議の上数名の候補者の中から申請人と石丸荘裕の両名を適格者として推薦した(なお同工場長は右両名のうち申請人がより適格であるとの意見を付した。)ので、被申請人は申請人が最も適格者であると認めて本件配転命令をなした。

しかし、被申請人も申請人が最高の適任者であると認めたわけではなく、事実当時の祖父江工場第一、第二抄紙課には合計約八〇名の課員がおり、申請人とほぼ同程度の経験、年数、年令の者は相当数あつた。さらに、当時第一抄紙課ではセミシン紙を、申請人の属する第二抄紙課では白ボール紙を製造していたので、セミシン紙の知識を必要とする前記受渡係には第一抄紙課員の方がより適任であつたと考えられ、申請人とともに推薦された前記石丸荘裕、申請人が配転を拒否したため申請人の代りに前記受渡係に配転された本野某はいずれも第一抄紙課所属であつた。なお、従来祖父江工場勤務の中学卒業者で本社勤務になつた例はなかつた。以上の事実が疎明され、証人安藤富吉、同内藤博典、同上野敞三の各証言中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実によると、人事異動の必要性のあつたことは認められるが、前記選考三基準なるものがほとんど無限定無内容に近く右基準に該当する者は相当数にのぼつたのに何故に申請人が選考されたのか、被申請人の理由とするところからは必ずしも納得しがたく、むしろ配転先の仕事内容からすると第一抄紙課員から選ぶのが妥当であつたと考えられるのみならず、前例を破つてまで中学卒の申請人を本社勤務にしなければならなかつた合理的理由は見出し難いのである。

そうすると、本件配転命令が被申請人主張のように申請人の組合活動とは全く無関係に専ら被申請人の業務上の必要に基くものであるとはとうてい認め難いのである。

(五) しかして、前記のように、被申請人大阪本社には労働組合がないため、申請人が大阪本社勤務になれば組合員資格を失うばかりか、もはや一切の組合活動をすることが事実上不可能に近くなるとすれば、申請人を大阪本社に配転させることは組合活動家である申請人にとり著しい不利益を与えることになることは明らかである。

のみならず、証人上野敞三、同内藤博典の各証言、申請人本人尋問の結果によると、申請人は本件配転命令当時昭和四一年三月一三日の結婚予定をひかえ結婚後も引続き祖父江工場に勤務することを前提として生活設計を立てており、同工場にいれば社宅に入居できる筈であつたが、大阪本社に配転されれば社宅はなく住宅手当として三〇〇〇円が附加支給されるにとどまり、住宅は自ら確保しなければならなかつたことが疎明される。当裁判所に顕著な今日の大都市における住宅事情にかんがみれば右手当金を以てしては、その住居を確保することは困難であるから、実質賃金の低下は免れず、本件配転命令により申請人は経済的にも不利益を受けるものといわざるを得ない。

(六) 以上の説明によれば、申請人に対する本件配転命令は労働組合法第七条第一号本文前段に該当する不当労働行為であり法律上無効のものといわなければならない。

三、前記認定のように、本件配転命令が無効であるとすれば、申請人がこの配転命令を拒否し、その後数回に亘る被申請人の配転勧告に応じなかつたとしてももとより申請人を咎むべき筋合ではなく、従前どおり祖父江工場第二抄紙課に勤務することは被申請人において拒否するところであつたことは容易に推認しうるところであるから、申請人には被申請人本社就業規則第五七条(祖父江工場第六三条)第四号、第二号に該当する行為は全くなく本件懲戒解雇の意思表示もまた法律上その効力を生じないものというべきである。

四、なお、申請人の一ケ月の平均賃金が二六、四二五円であることは当事者間に争いがないところ、被申請人は昭和四一年三月末日分まで支払済であると主張するけれども、これを認めるに足る疎明はないから、申請人は同年二月二七日以降一ケ月二六、四二五円の賃金を被申請人に対し請求する権利を有するものである。

五、以上のとおり本件解雇は無効と認むべきものであるが、解雇が無効であるにも拘らず、申請人が被解雇者として取り扱われ、しかも本案判決確定に至るまで賃金の支払いを受けられないことは、特に反対の疎明のないかぎり、労働者である申請人にとつて著しい損害を生ずべきことは明らかであるから、本案判決確定に至るまで本件解雇の意思表示の効力を停止するとともに被申請人から申請人に対して前記平均賃金額を仮に支払れるべき必要性がある。

また、本件配転命令が無効であることは前示のとおりであるが、将来本案判決が確定するまでの間申請人から被申請人に対して配転命令の無効従つて祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の従業員として取扱われるべきことの正当性を主張した場合、被申請人がこれを受容するかどうかは確実でなく、しかも、本件配転命令によつて申請人が前示の如き不利益を受けるものであれば配転による精神的、経済的苦痛は多大なことが明らかであるから、本案判決の確定までの間申請人の被申請人祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の従業員としての地位を仮に定めておく必要もあるものというべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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